2015-01-01から1年間の記事一覧

植草甚一ふうにいうと……――村上春樹・柴田元幸「帰れ、あの翻訳」についてのあれこれ

植草甚一ふうにいうと、「MONKEY」最新号の村上春樹・柴田元幸の対談を読んで、村上春樹はホントにアメリカの小説をよく読んでいるなあと唸ってしまった。この対談は特集の「古典復活」にちなんで、絶版や品切れになっている英米の小説について二人が語り合…

怯えるカフカ

『小泉今日子書評集』が書店新刊の平台に並んでいた。読売新聞に10年間掲載された書評を集成したものだという。それぞれの末尾にあらたに短いコメントが附されている。手に取ってぱらぱら頁をくっていると、ある箇所にきて、おおっと思った。最近、文庫本…

小説家は寛容な人種なのか、もしくは、ドイツ戦後文学について

又吉直樹の「火花」は「文學界」に掲載されたときに読んだ。芥川賞候補になる前だったが、いい小説だと思い、好感をもった。ただ、いささか「文学」っぽすぎるような印象があり、そこがいささか気になった。芥川賞受賞後、「文學界」の特集(9月号)を読み…

眠れゴーレム

五、六年前になろうか、寺山修司未発表歌集と題された『月蝕書簡』が岩波書店から刊行されたのは。寺山修司が晩年に作歌したものを田中未知が編纂した遺稿集であるという。この本の出版を新聞広告かなにかで見たときに、わたしのなかに危惧するものがあった…

山田稔『天野さんの傘』とその他のあれこれ

山田稔さんの新刊『天野さんの傘』をようやく読んだ。奥付の刊行日を見ると2015年7月18日発行となっている。その前後に本書の刊行を知り、神保町の東京堂書店に足を運んだ。いままでならレジ前の新刊平台に積まれているはずだった。しかし、そこには見当た…

戦争は懐かしい――玉居子精宏『戦争小説家 古山高麗雄伝』を読む

戦後70年といわれて、いまの若い人はどのような感想をもつのだろうか。二十歳の若者にとって、昭和20年は生れる50年前になる。わたしは昭和26年、1951年の生れだから50年前といえば1901年。日露戦争の始まる3年前になる。ロシアは革命の前、帝政時代である…

ラセラスは、余りに幸福すぎたので……  悼詞・鶴見俊輔

永井龍男に「朝霧」という短篇小説がある。“短篇の名手”と称される永井龍男の小説のなかでも代表的な一篇に数えられる名篇である(昭和24年の作)。 語り手(名を「池」という)が学生時代の友人のうちを訪ね、そこで出会った友人の父親(X氏)と母親につい…

言語・法・貨幣――岩井克人『経済学の宇宙』を読む

今週の「週刊文春」の「私の読書日記」(リレー連載)で、鹿島茂が岩井克人の新刊『経済学の宇宙』を見開き頁の3分の2以上のスペースを費やして取り上げている。私の知る限り、同著の最初の書評であり(明日、日曜の新聞各紙の書評欄のいずれかに書評が掲…

木戸にとまった一羽の小鳥――『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』を読む

タイトルが『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』、著者の「11冊目の小説、18冊目の著書」だからそう名づけたのだという。なんとも人を喰った小説(家)ではないか。 このノルウェイの作家ダーグ・ソールスターの著書をいままでに読んだことのある人…

書物探索のつづれ織り――北村薫『太宰治の辞書』を読む

北村薫さんの新刊『太宰治の辞書』が出た。久々の「円紫さんと私」シリーズ。カバー装画はもちろん高野文子さん。「花火」「女生徒」、それに書下ろしの表題作「太宰治の辞書」の三作を収録。扉裏の献辞「本に――」にゾクゾクする。残りのページが少なくなる…

詩を書く前には靴を磨くね――岩波文庫版『辻征夫詩集』

今月、岩波文庫の新刊で出た『辻征夫詩集』を買う。思潮社現代詩文庫版(正・続・続続)も全詩集の『辻征夫詩集成(新版)』も持っているのだけれど、「岩波文庫に1票」というつもりで購入する*1。 わたしのつくる本はたいがい票の集まらない本ばかりだが、…

アルマとココシュカ、もしくは「風の花嫁」

わたしがオスカー・ココシュカに関心をもったのは、滝本誠さんの文章によってだったと思う。「人工陰毛のアルマ・マーラー」、副題に「オスカー・ココシュカのスキャンダル」とある。 滝本さんは当時(1980年代)、一部にカルト的なファンをもつ映画批評家だ…

20世紀をふりかえる

――歴史は「人に痛みを与えるもの」というよりは、「かつて人に痛みを与えたと言われるもの」なのである*1。 パトリク・オウジェドニークの『エウロペアナ(Europeana)』は邦訳で150ページに満たない薄い本だが、副題に「二〇世紀史概説」とある。訳者はあと…