2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

さむるなき死の夢にしあれよ――塚本邦雄論序説(6)

手元に一冊の古ぼけた歌集がある。表紙や奥付には「春の祝祭」とのみ題されてゐるが、打ち函の題簽や本体の背には「青樫第一合同歌集」との表記が見える。昭和十五年九月二十五日発行、発行所は大阪府豊能郡の青樫社。 本歌集は、昭和十二年五月の創刊号より…

あとかたもなくひびきやみぬる――塚本邦雄論序説(5)

「今は昔、その旗幟に「新芸術主義」を謳ひ、一部の人々に匿れた宝石のやうな、冷やかな情念の輝きを惜愛された短歌グループがあつた。昭和十五、六年をピークとして全き燃焼をとげ、戦争を境として次第にその熱と光りを喪ひ、今は行方もつまびらかにしない…

かなしみを刺す夕草雲雀――塚本邦雄論序説(4)

先述の現代詩手帖特集版「塚本邦雄の宇宙」に永田和宏が「塚本年譜の意味」なるエッセイを寄せてゐる。永田は、かつて「國文學」に掲載された政田岑生編の塚本邦雄年譜を目にして、大きな衝撃を受けたといふ。それまで塚本の来歴はほとんど謎に包まれてゐた…