2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

〔Book Review〕『伊丹十三の本』

伊丹十三とは一度だけ言葉を交わしたことがある。あれは伊丹さんが森田芳光監督の『家族ゲーム』に出演したときだから、もう二十年以上前のことになる。 電話でインタビューを申し込み、実は近所に住んでいるのだと告げると、「じゃあ今からいらっしゃいませ…

〔Book Review〕鴨下信一『日本語の呼吸』

日本テレビの「エンタの神様」のエンディングは、はなわのガッツ石松伝説に定着したようだが、この元ネタを記憶している人も多いだろう。かつて、ビートたけしのラジオ番組から広まった村田英雄伝説である。 本書にも村田英雄の傑作なエピソードが紹介されて…

荘周が委蛻

むかし、あるところに周といふ者があつた。周は唐で仙術を修し怪力乱心を操る術に秀でてゐるとの専らの噂だつた。周が白紙に描いた鯉を池に浮かべてやると、鯉は紙から抜けだしすいすいと泳ぎ始めたといふ。あるとき、周を訪ねた客人があつた。談論風発数刻…

〔Book Review〕絲山秋子『海の仙人』

本書は、二〇〇四年二月に刊行された『イッツ・オンリー・トーク』につづく絲山秋子の二冊目の単行本、前回の芥川賞候補になった中篇小説である。 主人公の河野勝男は宝くじで大金を手にし、会社を辞めて敦賀で一人暮らしをしている。海沿いの古い家の床に砂…

夢の種子

1 「夢か……」 睡りからさめたたけしは、言いようのない哀しみにとらわれた。 夢中で遊んでいる最中に、いつか遊びにも終わりがくると考えたときの切なさに、それは少し似ていた。夢のつづきを見ようと目をつぶったけれど、もう睡りはおとずれてくれなかった…