2005-08-01から1ヶ月間の記事一覧

〔Book Review〕中条省平『名刀中条スパパパパン!!!』

――中条省平の新刊が出たよ。 ――あら。可愛いイラストね。 ――さすが名人・しりあがり寿だね。 ――名刀中条スパパパパンって、どういう意味? ――当たるを幸い薙ぎ倒す。高田馬場の堀部安兵衛か、中条省平か。 ――それってどこかの飲み屋? ――いや、まあ、『キル…

恋しくば

あの人は突然やってきた。 そんな印象があるけれど、たぶんそれは事実じゃないだろう。前もって父から話があったにちがいない。だけどぼくの記憶のなかでは、ある日突然、風のようにあの人はぼくの前にあらわれたのだった。 ぼくは、小学五年生だった。いつ…

〔Book Review〕マーティン・グリーン/塚本明子訳『リヒトホーフェン姉妹』

時は十九世紀後半、所は鉄血宰相ビスマルク治下のドイツ帝国。 プロイセン将校であったフォン・リヒトホーフェン男爵家に三人の娘が生まれる。ともにたぐいまれな美貌をうたわれたが、本書の主役をつとめるのはエルゼとフリーダの二人の姉妹。 姉のエルゼは…

瀆神の午後

風かよふ寝ざめの袖の花の香にかをる枕の春の夜の夢 俊成卿女 ふつと花の香がしたやうに思つた。花の香が薫子を夢から目覚めさせたのだつたが目覚めてみるとそれが何の花の香だつたかそれがどういふ夢だつたのかもはや薫子にはさだかでなかつた。花の香はあ…

〔Book Review〕久世光彦『飲食男女』

これは百物語である。 百物語とは、ご承知のように、何人かが集まって順繰りに怪談話をするというお遊びだが、怪談でなく男女の艶っぽい話をするとしたら、というのがこの本の趣向である。 そしてもう一つ、そこにはなにか食べものが絡んでいること。つまり…

ミランダ

雪はいっこうにやむ気配がなかった。 むしろいっそう激しく降りつのり、一フィート先すら霞んで見えた。 でも、もしこの吹雪がやんだとしても、何もかも見渡すかぎり雪におおわれて、きっと右も左もわからないでしょうけどね。ミランダは絶望的な気持ちでそ…