2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

この遠い道程のため――承前

片岡義男・鴻巣友季子『翻訳問答』について、もう一つだけ書いておきたい。前回の最後に引用した片岡義男のことば、「書き手が言葉を選んでつないでいくことが文章の前進力になる」ということに関連して、片岡さんは一つの例を提示している。それは、金子光…

チャンドラーを訳すのはやっかいだ――片岡義男・鴻巣友季子『翻訳問答』を読む

片岡義男・鴻巣友季子『翻訳問答』を読んだ。これは、オースティン、チャンドラー、サリンジャー等々著名な七人の小説家の代表的な作品の一部分を、お二人がそれぞれ日本語に翻訳し、それらについて語り合う、という刺戟的な試みである。当然、既訳も複数あ…

『神聖喜劇』そして/あるいは『白鯨』

「海こそはわがハーヴァード大学」と言うメルヴィルにとって、海は生のアイロニーへの決定的なイニシエイションの空間であった。 ――高山宏「メルヴィルの白い渦巻」*1 前回の末尾にわたしは『神聖喜劇』を「異形のテクスト」と書いた。それには幾つかの理由…