2019-01-01から1年間の記事一覧

京都で山田稔さんに会う

山田稔さんの新刊『門司の幼少時代』がぽかん編集室から刊行され、その刊行記念に催される〈「ぽかん」のつどい〉に出席するため、先月の17日、京都へ出かけた。京都の書店・恵文社一乗寺店に附属するCOTTAGEというスペースでの山田さんを囲むトークイベント…

阿部昭の小説を読むには……

阿部昭の新刊が出ていた。このところ外出もせず(べつに謹慎しているわけではないけれど)書店にも御無沙汰で、うっかり見落としていた。文庫版の『天使が見たもの』(中公文庫)と単行本の『阿部昭短編集』(水窓出版)の二冊。阿部昭は、今年が没後30年な…

人生のすぐ隣にある散文――『山田稔自選集 1』

山田稔さんの新刊『山田稔自選集 1』(編集工房ノア)が出た。 既刊のエッセイ集『ああ、そうかね』『あ・ぷろぽ』を中心に、その他の作品集などから選ばれたエッセイおよそ七十篇ほどが収録されている(単行本未収録の作品もわずかながらある)。一篇が3…

誰に見しょとて…… 悼詞・加藤典洋

「ぼくはぼくであることについてはたして自由だろうか?」 ――J.M.G.ル・クレジオ『物質的恍惚』 先月の5月16日、加藤典洋さんが亡くなった。突然のことで、驚いた。新聞の訃報記事に死因は肺炎とのみ書かれていて、肺炎にいたる病がなにかはわからなかっ…

映画のなかのナボコフ

最近みた映画にたてつづけにナボコフが出てきたので「おやおや」と思った。1本はスティーヴン・ソダーバーグ監督の『アンセイン~狂気の真実』(2018)。 全篇アイフォンで撮影されたというサイコスリラーで、ストーカーにつけ回されたヒロインが病院の一室…

われらをショットガンと父親の自殺から救いたまえ

アマゾン・プライムビデオでHBO制作のTVドラマ『オリーヴ・キタリッジ』(2015)を見た。エリザベス・トラウトの連作短篇集13篇から4篇をピックアップした全4話のミニシリーズだが、原作の2話ないし3話からエピソードを取って1話にしたものもある。原作…

戦争のくれた字引き――黒川創『鶴見俊輔伝』を読む

黒川創『鶴見俊輔伝』を読んで、つよく印象づけられたことについて記しておきたい。本来なら鶴見自身の著作に直接あたりなおして書くべきだが、いまその用意がない。暫定的な心覚えとして書いておきたい。 鶴見俊輔は戦後10年ほど経ったころ、「戦争のくれた…

もう少し小津について話してみよう

2018年12月12日、小津の生誕115年、没後55年のメモリアルデイに1冊の本が刊行された。田中康義『豆腐屋はオカラもつくる 映画監督小津安二郎のこと』。 田中康義氏は1930年生れ、松竹で『早春』『東京暮色』『彼岸花』と3本の小津作品の助監督を務め、『ケ…

ちょっと待ってくれ、僕は小津のことを話してるんだ

白洲正子についてはよく知らない。随筆集を何冊か文庫本で読んだだけだ。いずれ腰を据えてじっくり読んでみたいと思っていたが、いずれなどと悠長なことを言っていられる時間の余裕はなくなってしまった。小林秀雄や青山二郎らとの交遊についての随筆はそれ…