2006-09-01から1ヶ月間の記事一覧

横たわる子規――詞書寸感

1 正岡子規は『墨汁一滴』の明治三十四年四月二十八日の条でこう記す*1。 「夕餉したゝめ了りて仰向に寝ながら左の方を見れば机の上に藤を活けたるいとよく水をあげて花は今を盛りの有様なり。艶にもうつくしきかなとひとりごちつゝそゞろに物語の昔などし…

けふといふ日――魚眠洞余聞

1 昭和三十年四月十九日の午前十時頃、久保忠夫は馬込の室生犀星宅を初めて訪れた。犀星から届いた前月二十三日附けの草木屋製の葉書に「御出京の折はお立ちより下さい、午前なら必ず居ります」と書かれていたからである。東北大学文学部国文科の大学院に学…