2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

上林暁と関口良雄

上林暁に『随筆集 幸徳秋水の甥』という本がある。昭和五十年(1975)に新潮社から刊行されたものである。何年か前、私はこれを古書店で購った。函入りの上製本で、パラフィンも残っている。見返しに「うすうすとこんにゃく色」に色褪せた新聞の切抜きが二葉…

十字架をうつしづかなる釘音きけり――塚本邦雄論序説(10)

「もともと短歌といふ定型短詩に、幻を見る以外の何の使命があらう」。この有名なマニフェストを塚本邦雄が高らかに宣したのは昭和三十九年、雑誌「短歌」に寄せたエッセイ「短歌考幻学」においてであり、それはのちに「前衛短歌のバイブル」と評される第一…

ただわびすけといふは冬の花――塚本邦雄論序説(9)

卓上に旧約、妻のくちびるはとほい鹹湖の暁の睡りを 歌誌「玲瓏」第六十号(2005年2月)の座談会<『水葬物語』それ以前>*1において林和清は、塚本邦雄の上掲の歌に対する杉原一司の「何という有機的な語の配分だろう」「意味と感覚の交錯の中の叙情か」と…