2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

皐月待ちゐし――塚本邦雄論序説(3)

塚本邦雄はいかにして塚本邦雄となつたか。『水葬物語』でデビューを果たすまでの邦雄の足跡をたどりながらそれをいくらかなりとも明らかにしてみたいといふのが本論の意図であるのだが、書き始めてある困難に逢着することになつた。邦雄の閲歴にかかはる真…

眠る間も歌は忘れず――塚本邦雄論序説(2)

昭和十七年夏、二十歳の誕生日を迎へたばかりの塚本邦雄は、広島は呉海軍工廠に徴用された。彦根高等商業(いまの滋賀大学経済学部)に学籍を持つ故にか会計部に配属されたが、もとより商ひに志したわけではない。学校はただの方便、青年邦雄の興味は文学、…

言葉のユートピア――塚本邦雄論序説(1)

戀に死すてふ とほき檜のはつ霜にわれらがくちびるの火ぞ冷ゆる おおはるかなる沖には雪のふるものを胡椒こぼれしあかときの皿 馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ ――「花曜」、『感幻楽』より 塚本邦雄が生涯に遺した膨大な短歌のほ…

わが忘れなば――小沢信男と花田清輝

小沢信男『通り過ぎた人々』(みすず書房)を読む。小沢さんが新日本文学会で出会った人々との交遊を綴ったエッセイ。見出しに掲げられた十八人の文筆家たちはすべて鬼籍に入った人たちで、そういった意味で「いまは亡き新日本文学会への私なりの追悼記」(…