2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

翻訳者は裏切り者――ナボコフ再訪(1)

1 この間、翻訳詩について数回に亙って書き継いできたが、そのなかで小説の翻訳の問題にふれて『フィネガンズ・ウェイク』と『白鯨』の名を挙げたところ石井辰彦氏にコメントをいただき、はからずも『白鯨』の数種の翻訳を比較することになった。本棚の奥か…

ロバート・フロストを読む皇后

一九九八年にニューデリーで開催された第二十六回国際児童図書評議会(IBBY)において、美智子皇后が基調講演(ビデオテープによる)をなさったことは広く知られている。「子供の本を通しての平和――子供時代の読書の思い出」と題された講演内容は、宮内…

『細雪』を読む天皇

私がここに書くものはきわめて私的な回想と読書感想文のたぐいが殆どで、思い出話はともかく、感想文については記憶の中の本や偶々手元にある本から気儘に抜書きをして他愛ない感想を附しただけで、剰え格別珍しい本などそこに含まれてはいない。したがって…

陸橋からの眺め――中村昌義という小説家(その2)

1(承前) 「大通りから少し入った横丁に、雑居ビルというほどもない小さな飲み屋の集った建物があって、その一階に「おめんや」と小さな看板が出ていた。やきとりを主とする店のようだった。」(「別れの手続き」) そこが目的の店である。中に入ると、十…