2017-01-01から1年間の記事一覧

なんだなんだそうだったのか、早く言えよ

「なんだなんだそうだったのか、早く言えよ」は、加藤典洋さんの本のタイトルだけど、わたしも時折りそうつい呟いてしまう出来事に遭遇することがある。知らぬは亭主ばかりなり。わたし以外には、周知のことなのかもしれないけれど、立て続けに遭遇したふた…

ちいさな本棚――(その1 詩集の棚)

クラフト・エヴィング商會に『おかしな本棚』(2011年、朝日新聞出版)という本がある。『らくだこぶ書房21世紀古書目録』(2000年、筑摩書房)とともにわたしの大好きな本についての本。『らくだこぶ』については、ずいぶん昔になるけれどネットで書評を書…

「あっと思った」こと――二年半後の『太宰治の辞書』

北村薫さんの『太宰治の辞書』が文庫本になった。単行本が刊行されたときに、「書物探索のつづれ織り」という感想文をここに書いたのがもう二年半前*1。単行本は新潮社から出たけれど、文庫は創元推理文庫です。《円紫さんと私》シリーズですからね、当然で…

われがもつとも惡むもの――高橋順子『夫・車谷長吉』を読む

車谷長吉の小説を初めて読んだのは20年ほど前、たしか1996年前後だったかと思う。当時住んでいた京都市内の図書館の書架で見つけた『鹽壺の匙』(1992)を借り出したのが車谷の小説との最初の出遭いだったはずだ。『鹽壺の匙』は第一短篇集で、芸術選奨文部…

日が暮れてから道は始まる

過日、久しぶりに所用で都心に出かけ、午後すこし時間があまったので古本屋を覗いてみることにした。JR中央線荻窪駅前のささま書店。かつて国分寺に住んでいたころは通勤の帰りに週に一度はかならず立ち寄っていた店だ。百円均一の本を一冊レジにもってゆく…

イッツ・オンリー・イエスタデイ――『騎士団長殺し』への私註

――「おそらく愚かしい偏見なのだろうが、人々が電話機を使って写真を撮るという行為に、私はどうしても馴れることができなかった。写真機を使って電話をかけるという行為には、もっと馴染めなかった」(第2部、283頁) 村上春樹の新作『騎士団長殺し』は、発…

「大西巨人の現在」というワークショップに出かけてみた

生来の出不精にくわえ寒さにはからきし弱いので、もっぱら冬眠していた。このところすこし暖くなってきたので、啓蟄にはすこし早いが冬籠りから這い出して、九段の二松學舎大学で催された「大西巨人の現在――文学と革命」という公開ワークショップを聴講しに…

一期は夢よ ただ狂へ――梯久美子『狂うひと』

――おひさしぶり。最近どうしてる? ――浦の苫屋の侘び住まい。 ――なにそれ。 ――酒も薔薇もなかりけり。あいかわらず本と映画の日々ですよ。たまに仕事を少々。 ――最近、なにか面白い本読んだ? ――遅ればせながら『狂うひと』を読み終えたばかり。 ――島尾ミホ…

オンリー・コネクト――バッハマン、ツェラン、アメリー

日がな一日のんべんだらりと過している。本を読み、映画を見、家事をし、また本を読む。その繰返しで一日が過ぎ、一週間が過ぎ、ひと月が過ぎる。時のたつのが早い。Time flies by. 時は翼をもつ。翼をもたないわたしは時に置き去りにされ呆然と立ちすくむ。…