2021-01-01から1年間の記事一覧

中野重治の電話

「七年前の春だったと思う、中野重治さんから手紙をいただいた」という書き出しでその文章は始まる。達筆にしるされたその名前は、すぐには「歌のわかれ」の作者とむすびつかなかった。なにごとかと訝しみつつ手紙を開いてみると、あなたの書いた小説「心中…

「群像」10月号を読んでみる(てか、目次をつらつら眺めてみる)

「群像」という雑誌があります。このブログをたまにご覧になるような方なら当然御存知でしょうが、あの「群像」です、文芸誌の。 ふつう、日常会話のなかでグンゾーといっても通じません。「グンゾー?」と訝しげに訊かれて「いや、あの、ほらノーベルショー…

奇才須永朝彦の二著

ユリイカ臨時増刊号『総特集 須永朝彦 1946-2021』が刊行された。今年5月に長逝した歌人・作家須永朝彦の全300頁余を費やしての追悼号である。須永朝彦の名を知る読者がどれほどいるのかわからないが、超の名がつくマイナーポエットには違いないだろう。ほ…

百句繚乱

『百句燦燦』は、塚本邦雄が精選した、というよりも鍾愛する現代俳句百句を掲出し、鑑賞文を附した詞華集で、その講談社文芸文庫版の解説を橋本治はこう書き出している。 「私が書店の棚にある『百句燦燦』を見たのは、二十六歳の秋だった。」 二十六歳とい…

さみしいね。――鴨下信一さんのことなど

脚本家の橋田壽賀子が四月四日に亡くなった。小沢信男さんより二歳年上の1925年生れ、享年九十五だった。新聞の一面に訃報記事が掲載されたのは、脚本家として初めて文化勲章を受章したという経歴によるものだろうか。そのすこし前、新聞記事の扱いは橋田壽…

さよなら小沢信男さん ――あわや一年の更新

このところようやく暖かい日がつづくようになり厚手のコートを薄いブルゾンに変えて外出している。よんどころない「要」があっての外出である。 「今年は三月に入って四日と十二日と二度も大雪が降ったりしたせいか、由美がホクホクやって来て、ぼくを斎藤…