2005-09-01から1ヶ月間の記事一覧

〔Book Review〕レベッカ・ブラウン/柴田元幸訳『若かった日々』

『体の贈り物』『私たちがやったこと』などで、若い女性たちを中心に多くの読者に熱い共感と感動をもって迎えられたレベッカ・ブラウンの最新短篇集。 一人の女性の思春期の頃の家族の思い出、性のめざめなどが、この作家特有の繊細で喚起力に満ちた文章で綴…

胡桃の中の夢

人間はすべて夢だけを信じて生きてゐるのである。人間に信ずる事が出来るのは夢だけだからだ。 ――小林秀雄 三月のある晴れた日の午後、私は三十年ぶりに母校の小学校の校門をくぐった。卒業して以来はじめて訪れる校舎はすっかり様変わりし昔日の面影をとど…

〔Book Review〕アリステア・マクラウド/中野恵津子訳『冬の犬』

冒頭におかれた十頁たらずの短篇「すべてのものに季節がある」が本書のキーノートとなっている。 少年の頃のクリスマスの回想。兄の帰省を待ちわびる家族の姿がたんたんと語られる。 サンタクロースの存在を信じている私に父はこう言う。 「人生の『よいこと…

カムバック

手のひらはじっとりと汗ばんでいた。膝の震えを止めようと手で押さえると躰全体がぶるぶると震えた。アルコール依存症は完治したはずだった。禁断症状じゃないとすれば極度の緊張のせいだろうか。 「まさか」男は声に出して言ってみた。「尻の青いガキじゃあ…