2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧
前回、浅見淵随筆集『新編 燈火頬杖』の藤田三男による解説文を引いて、「「細雪」の世界」は正宗白鳥によって強く推挽された、と書いた。その後、手許にある白鳥の本を拾い読みしていたら、思いがけず当の文章に出くわした。とんだ所へ北村大膳。その本とは…
谷崎潤一郎の「細雪」はよく知られているように戦時下に「中央公論」に連載される予定であったが軍部の忌諱にふれ、二回分が掲載されたのみで連載は途絶した(昭和十八年)。発表のあてのない小説を谷崎は孜々として書き継ぎ、十九年臘月秘かに中巻を脱稿し…
「ある年のある日の午後、パリの第七区の静かな食堂で、私はE・H・ノーマン E.H.Norman氏とさし向いで晩い昼食をしていた。」*1 それはおそらく1952年か53年あたりのことだろう。時分どきを過ぎたレストランは閑散とし、ほかに客はといえば二組か三組のカ…
「なにがしという人間についての覚え書は、当のなにがしが取るに足らぬ人間であっても一般的な意義を持つ。ただしこの場合は、覚え書をつくる方の人間が取るに足る材でなければならない。正反対にではないが、なにがしという人間がしかるべき人物である場合…