2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

すべて世は事も無し――翻訳詩の問題(1)

翻訳小説を読んだり自分でも翻訳書を編集したりするせいもあって、翻訳に関する本はわりあいよく読む。最近出版された柴田元幸さんの『翻訳教室』(新書館)は、東大文学部での授業(「西洋近代語学近代文学演習第1部 翻訳演習」)を文章化したもので、じつ…

鈍色のニヒリズム――西條八十

テレビで久世光彦の葬儀の様子を放映していた。夫人の涙ながらの挨拶以上に、一瞬映し出された俳優たちの憔悴した面持ちがより多くのことを語っていた。もう久世さんの演出のドラマで彼らを見ることはないのだと思うとひどく残念な思いがした。人の死を、死…

「槻の木」の人々――岩本素白素描

『群像』の一月号から始まった「僕の古書修業」という連載エッセイが面白い。筆者は表参道でカウブックスという古書店を経営する松浦弥太郎。著書も何冊かあるそうだが未見。 連載第一回は「師匠との出会い」と題し、ひとりの老人との出会いを語る。書籍の編…

あとから来るもの夜ばかり――追悼久世光彦

久世光彦さんが亡くなられた。 昨年十一月にあるパーティでお遭いした折はお元気そうだったのに、あまりに突然のことでまだ信じられない。淡いご縁だったのでとりわけ哀しいということはないが、心の底に茫洋とした喪失感が漂っている。 久世さんに初めてお…