2022-01-01から1年間の記事一覧

水の中で水が沈む――『水』そして『いのち』

北村薫さんの新しい作品集が出ました。タイトルは『水』、サブタイトルは「本の小説」です(新潮社)。前作『雪月花――謎解き私小説』(同)と同じく、本や作家をめぐるエッセイ風の小説です。今回の趣向は、一冊の本が別の本につながり、ある作家が別の作家…

わが人生の喪服

『かもめ』を見た。2018年製作のアメリカ映画で、チェーホフの戯曲をほぼ原作通りに映画化したものだ。監督はブロードウェイミュージカルでトニー賞を受賞したことのある演出家マイケル・メイヤー。日本では劇場未公開、アマゾンプライムビデオで配信された。…

アイルランドの飛行士は死を予見する

『幸せの答え合わせ』という映画を見た。2019年製作のイギリス映画で、原題はHope Gap、劇作家でもある監督のウィリアム・ニコルソンが自作の戯曲「モスクワからの退却 The Retreat from Moscow」をアダプテーションしたものだ。「モスクワからの退却」は、…

チャンドラーの小説のある人生――新訳『長い別れ』をめぐって

いささか旧聞に属するけれど、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』の新訳が出た。訳者は田口俊樹、タイトルは『長い別れ』。ハメットの『血の収穫』、ロスマクの『動く標的』の翻訳に次いで、「ハードボイルド御三家」の長篇に満を持して挑戦…

『雪国』裏ヴァージョン――川端康成『雪国』について(その3)

前述の水村美苗の「ノーベル文学賞と『いい女』」というエッセイには、『雪国』の英訳に関してもう1ヶ所、興味深い指摘があった。島村が駒子に「君はいい子だね」といい、それが「君はいい女だね」という言い方に変わる場面である。ざっとおさらいしておこ…

black and white in the mirror――川端康成『雪国』について(その2)

前回、島村と駒子の「あんなこと」について、思わず筆を費やしてしまった。しかし、ことはまだ終わっていない。肝心の「あんなこと」が小説でどう描かれているのかについて、ふれておかねばならない。 呼び寄せた芸者と一緒に部屋を出た島村は、芸者を置き去…

「あんなこと」や「こんなこと」――川端康成『雪国』について

今年は川端康成の没後50年にあたる。そのせいか、NHKBSプレミアムで『雪国―SNOW COUNTRY―』が放送された(4月16日)。脚本藤本有紀、演出渡辺一貴、主なキャストは駒子が奈緒、島村が高橋一生、葉子が森田望智。奈緒の演ずる駒子は、「清潔な」と称されると…