2006-06-01から1ヶ月間の記事一覧

あなたは勝つものと思っていましたか――『目白雑録2』を読む

あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ むろんこれはW杯の日本対ブラジル戦の話ではなく、昭和二十一年に刊行された歌集『夏草』に収められた土岐善麿の高名な歌であるけれども、日本一次リーグ敗退と一面にカラー写真入りで報…

ブルームの日

「長篇小説は何で出来てゐるか」と藪から棒の問ひかけで著者は論を始める。筋と登場人物でできてゐる、言葉でできてゐる、時間と空間でできてゐる、始まりと半ばと終りとでできてゐる、といろんな説を紹介し、では十九世紀の標準的な長篇小説はどんなふうに…

夢にまぎれぬ――正徹管見

1 折にふれ正徹の『草根集』を繙いている。いつも懇切なコメントを寄せてくださるnagorinoyumeさまより恵与された翻刻本のコピーである。原本は、ノートルダム清心女子大学国文学研究室古典叢書刊行会が黒川文庫や正宗文庫の蔵本を翻刻した四巻本で、春夏秋…

文士の底意地――川崎長太郎

ナボコフの話題を続けるつもりでいたのだけれども、聊か重くなりそうなので、今回はいつものように読み散らかしている本から他愛のない感想文で一席おうかがいすることにしたい。 1 岩波書店のPR誌「図書」に平出隆が書いている「遊歩のグラフィスム」と…