〔Book Review〕中条省平『名刀中条スパパパパン!!!』


――中条省平の新刊が出たよ。
――あら。可愛いイラストね。
――さすが名人・しりあがり寿だね。
――名刀中条スパパパパンって、どういう意味?
――当たるを幸い薙ぎ倒す。高田馬場堀部安兵衛か、中条省平か。
――それってどこかの飲み屋?
――いや、まあ、『キル・ビル』のユマ・サーマンみたいなものかな。
――ブックガイドなの?
――そうも読めるんだけど、元は雑誌に連載された文藝時評なんだ。
――夕刊に載ってる小説の品定めみたいなもの?
――まあね。中条省平のことだから、内外の娯楽小説・純文学問わず、さらに評論にマンガに映画、と対象は広いよ。それに落語もね。
――面白かった?
――感動した。
――なによそれ。どっかのボキャ貧の首相みたい。
――いや、ほんとに感動したんだよ。文藝時評を読んで感動するなんて思いも寄らなかったな。
――やれやれ。で何に感動したの?
――たとえば、佐野眞一の『東電OL殺人事件』を取り上げて、このルポルタージュが優れているのは、取材の徹底さもさることながら、被害者のOLに佐野が感情移入し、ついには彼女の「怪物的純粋さ」に胸がふるえるほど感動しているところだ、というんだね。中条は佐野の「感動」に感応し、返す刀でこの事件を生ぬるい小説に仕立てた久間十義の「鈍感」さを斬って捨ててるんだ。
――へえ〜。
――佐野にとって東電OLは己の全存在を賭けて迫る対象だったのに対し、久間にはたんなる小説の素材に過ぎなかった。これでは彼女の真実に迫れないよ。中条はここで、批評という行為が小手先の営為でなく、佐野のルポルタージュ同様、己の全存在を賭して行ないうる営為であるということを示しているんだよ。これじゃ感動しないわけにゆかない。
――批評も小説も「諸刃の剣」ってわけね。
――そう。ひとり安全地帯にいてなしうる仕事じゃない。日航機墜落事故という事実に取材しながら航空会社も政治家も仮名にした、山崎豊子の小説『沈まぬ太陽』の腰砕けぶりを厳しく批判したところも胸がスッとしたね。
――倫理的なのね。
――天に代わりて不義を討つ、さ。
――またわかんないこと言ってる。
――この本は、文学や社会や政治に対する危機意識の表明という意味で、たぐい稀なクリティックの書というべきだろうな。九九年のNATOセルビア空爆を論じた多木浩二の『戦争論』を取り上げた章で、中条は多木とともにはるか二〇〇三年のイラク戦争を予見しているよ。


              (「マリ・クレール」2004年2月号掲載)
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名刀中条スパパパパン!!!

名刀中条スパパパパン!!!