2008-01-01から1年間の記事一覧

しめこのうさうさ――武藤康史『文学鶴亀』を読む(その2)

先週の図書新聞(3月15日号)に掲載された東京堂書店の売上げトップテンの第四位に『文学鶴亀』が入っていた。東京堂書店ならでは、というか、こういう本は東京堂で買いたいという読者もきっといるのだろう。ちなみに、トップテンを掲げると、 東京堂書店…

松永伍一さんの死を悼む

松永伍一さんが亡くなった。 四十年ちかく親交のあった俳優・歌手の西郷輝彦さんによれば、三月二日の夜十時過ぎ、危篤の知らせに病院へ駆けつけたが、十二時十六分、静かに息を引き取られたという(<西郷輝彦のつぶやきblog>)。 学生時代、愛読した批評…

武藤康史『文学鶴亀』を読む(その1)

週末、某所に籠る。終日軟禁状態で二泊を過ごすため、さて何の本を持って行こうかとあれこれ物色し、なんとか決まりかけたところへ畏友武藤康史の新刊『文学鶴亀』が届く。鞄に入れかけた本を本棚に戻し、『文学鶴亀』を仕舞い込む。二段組330頁、相手にとっ…

ロブ=グリエのために

佐藤亜紀さんのブログ日記(新大蟻食の生活と意見/2月19日)に、新聞のアラン・ロブ=グリエ死亡記事に関する批判が掲載されている(http://tamanoir.air-nifty.com/)。佐藤さんは某朝日新聞の死亡記事と共同通信(配信)の死亡記事とを並べて、某朝日新聞…

微笑と憂鬱――「老妓抄」を読む

週末、一本原稿を仕上げるのに時間をとられたので、旧稿をディスクの底から引っ張り出して虫干しすることにした。ちょうど一年前、雑誌「国文学」の特集<家族の肖像――岡本太郎・かの子・一平>(07年2月号)に掲載されたもの。学者さんたちの業界誌のよう…

『越境者 松田優作』を読む

そうか、あれからもう二十年ちかくが経ったのか。十八年前の1989年10月5日、渋谷文化村のオーチャードホールでこれから特別上映(初の一般試写)される『ブラック・レイン』に客席は期待でざわめいていた。上映に先立って出演者たちの舞台挨拶があった。ずら…

アル中オサベ

えーと、どこまで話したっけ。そうそう、ヤマチューこと山崎忠昭さんがわけもわからず山川方夫の告別式に出かけた、というところまでだった。時計の針を一ヶ月捲き戻して、その続きを綴ると―― ヤマチューさんを告別式に拉し来ったのはアル中オサベこと長部日…

菊池寛の「新刊」に感歎する

岩波文庫が好調だ。赤帯でクローデル『繻子の靴』の渡辺守章新訳、ジョイス『若い芸術家の肖像』の大澤正佳新訳が相次ぎ、『アーネスト・ダウスン作品集』にロペ・デ・ベガ『オルメードの騎士』、それにプリーストリー『夜の来訪者』という渋いところをヒッ…

文体練習書評篇

いまはどこかに埋もれていてすぐには取り出せないのだけれども、丸谷才一の編著になる『ロンドンで本を読む』という本(最近文庫にもなった)の書評を書いたことがある。 その本の序文で丸谷は、かれが範とするイギリスの書評の特長を三つ挙げているのだが、…

新春文体練習の一席

寄り道をしはじめると果てしなく寄り道の快楽に耽るというのがトリストラム的性格のわるいところで、今回もつづけて寄り道の漫文を綴ることにしたい。お正月のこととてお屠蘇気分の座興と御容赦ねがいたい。 さて、レーモン・クノーに『文体練習』という本が…