「Woman」第8話の映像に呆然とした



 すごいすごい。今晩(21日 22:00〜)放送されたTVドラマ「Woman」第8話。近年これほど充実した映像を見た記憶はない。後半、最後の10分ほどに呆然とした。
 評判のドラマなのでご覧になっている方も多いだろう。ストーリーは書かない。梗概はWikipediaなり日本テレビの「Woman」サイトなりをご覧いただきたい。
 幼いふたりの子を育てているシングルマザー小春(満島ひかり)は難病(再生不良性貧血)をわずらっている。思いあまった小春は同居する不仲の母(田中裕子)に、骨髄移植のための医者の面談に同席してほしいと頼む。母はたったいま娘の栞(二階堂ふみ)が突然家を出ていったことにショックを受けて、小春のことばも耳に入らない。呆然としてわけもなく風呂の湯船を洗い始め、事情のわからない小春に「栞が出て行って、なぜ、あなたがいるのよ!」と怒鳴りつける。
 さて、翌日。母は耳に残っていた再生不良性貧血ということばを家庭医学事典でしらべ、小春が置いていった医師の名刺をもって病院を訪ねる。カットバックして、栞のいた部屋で、幼いふたりの子が栞の置いていったデジタルプレイヤーのイヤフォンで音楽を聴いている場面がハイスピード(スローモーション)で描かれる。音楽が流れだす。栞がよく聴いていた歌だろう。母は医師から説明を受けている。ことばはない。歌だけが流れる。母が部屋のドアをあけて出てくる。病院を出てしばらくして走り出す。幼いふたりの子、小春がはたらいている職場のカットバック。走る母。歌が流れる。階段をのぼる母の足元。はたらく小春。柱の陰からそっと中をうかがう母の顔のアップ。音楽が突然やんで、静寂のなか、母の口元が「こ・は・る」という形にひらく。
 記憶で書いているので忠実ではないが、ほぼ以上のようなシークエンスである。驚いたのはそこにいっさいセリフがないことだ。通常のドラマなら、病院を訪ねた母に、医師が小春の病気を説明し、それに対する母の反応が描かれるだろう。だがそんなものが不要であることをこのドラマのスタッフは知悉している。病院の部屋のドアをあけて出てくる母のワンショットですべてを語り尽せると確信しているのだ。
 走る母。歌が流れる。このシークエンスは、黒澤明の『八月の狂詩曲』の、激しく降りしきる風雨の中で傘をおちょこにした村瀬幸子にかぶさって児童合唱団の歌う「野ばら」が流れるラストシーンの戦慄に匹敵する。
 脚本・坂元裕二、演出・相沢淳、チーフプロデューサー・大平太らスタッフのチームワーク、満島ひかり、田中裕子、そして子役らキャストの演技も申し分ない。傑作である。
 http://www.ntv.co.jp/woman2013/


【追記22日】
イヤフォンから流れ出す歌は「BELIEVE(ビリーブ)」という合唱曲だという。どこかで聞いた歌だった。ドラマの中ほど、食卓で「ねえ、お父さんの好きだった歌はなに?」と娘が小春に訊ねる場面があった。「ビリーブだったかな」とナマケモノさん(田中裕子の再婚者・栞の父)が言う。それが伏線になっていた。小春の夫を死に追いやることになった栞が携帯プレイヤーに入れてこの歌を聴いていた。そこに栞の言い知れぬ哀しみがある。