このかなしみの大きな穴は



 3月19日附「放射線防護に関するドイツ連邦庁の報告」は、当初の目的が達せられたと判断し、削除する。
 今般の三陸地震による大惨事と福島第一原発の事故、その他それらに起因する諸々の余波はいまなお進行中である。なかんずく、災害によって肉親を亡くされた方々の報道に接すると胸ふたがる思いがする。だが、わたしたちはことばを発しつづけなければならない。なぜなら、ことばが、ことばだけが新しい現実をつくりだすことができるのだから。
 わたしたちのことばはどこまでとどくだろうか。


 …………
このかなしみの大きな穴は
てのひらなどでは覆えない
地上にはあまりに多い死者たちの領土
あまりに厚い死者たちの夜……
だれだろう しげみのむこうで
そげおちた足を洗っているのは
そうしてだれが陸橋の闇にのけぞるのだろう
あなたは死んだ あなたは死んだと
小路の奥でだれの心が泣くのだろう
わずかに死から目こぼしされたぼくらの夜
蜘蛛の糸がぼくらの夜空に張りめぐらされ
昇天するぼくらの仲間はその網につかえてしまう
かれらが街におとしている巨大な影で
ぼくらの窓の灯火はかげってしまい
押し寄せる闇におびえてふるえている
 …………
                ――大岡信「人間たちと動物たちと」抄