It's a small world.――バリー・ユアグローに



 ある日、あなたの携帯電話に見覚えのない差出人からメールが届く。いつもの迷惑メールかと思いながら、ふと魔が差して開いてみる。それは夫との性生活に不満を持っている人妻からの誘いのメールでも、厳正な抽選によりあなたに高額の商品が当たったのでホームページをクリックするようにと促すメールでもない。うっかり携帯電話を飲み込んでしまった男についての報告だ。これは携帯電話を決して飲み込んではいけないという電話会社からの警告メールにちがいない。あなたは病院で胃カメラを飲まされたときの苦い体験を思い出し、大きなお世話だと呟きながらメールを削除する。
 翌日、あなたの携帯電話に昨日と同じ差出人からのメールが届く。また電話会社からの警告メールかと思い削除しようとするが、ふと気を取り直して開いてみる。今度は、地下鉄に乗ると周りの乗客がみんな猿に変身するという話だ。その翌日は、小鬼と小説を書く警備員の話だ。あなたは、はたと気づく。これは奇想天外な話で私を面白がらせようと誰かが企んだことにちがいない、と。
 翌日もその翌日もへんてこなメールは途切れることなく届き続ける。面白がって読んでいたあなたは、やがてこの話を誰かに伝えたくなる。こんなメールが来たんだけど面白いだろ、そんな注釈をつけると面白さが半減してしまう。自分が受け取ったようにどこの誰とも知らない誰かから突然送られてくるのがいい。あなたは何人かの友人にへんてこなメールを転送する。もちろん差出人があなただとはわからないようにして。
 手を変え品を変えへんてこなメールは毎日あなたの元に届く。あなたはせっせとそれを転送し続ける。そのうちあなたは奇妙なことに気づく。どうもこれは以前読んだ話と似ている。いや同じ話にちがいない、と。きっと知人があなたと同じようにメールをあなたに転送したにちがいない。やがて、同じ話が一日に何度も届き始める。あなたの携帯電話には、蚊をペットにする少年の話やら、馬を造る男の話やら、いくら飲んでも減らないスープの話やらが世界中から繰り返し繰り返し届くようになる。もはや削除する気力さえ失わせるほどひっきりなしに。

ケータイ・ストーリーズ

ケータイ・ストーリーズ