蜻蛉釣り今日は何処まで行ったやら


O様
 台風の影響でしょうか、今日は朝から雨が降りしきっています。いつものように、向かいの樹林を眺めていたら、あ、鷺が! 

 雨の降る日に時折り姿を見せます。今朝は畑に着地して、なにやら思案気の風情。さて、どうしようかと考えているのでしょうか。しばらくすると、木蔭に向かってとことこと歩いてゆき、そのうちに姿が見えなくなりました。


 珈琲を淹れて朝刊をひろげると、「天声人語」にこういう文がありました。


 「俳優であり俳人でもあった渥美清さんに次の句がある。〈赤とんぼじっとしたまま明日どうする〉。詠んだのは63歳の秋。」


 天声人語子はつづけてこう書いています。
 「じっと動かないトンボに四角い顔を寄せ、何ごとかつぶやく名優の姿が目に浮かぶ」
 そうでしょうか。
 わたしの解釈は、すこし違います。夜も更けて、しんとした静寂のなか、彼は孤り、思いをめぐらせています。さて、明日はどうしようか。明日とは、明後日もしあさってもふくむ不定の未来であるのかもしれません。
 そんなとき、ふと生垣にとまった赤とんぼが脳裏に浮びます。羽根をやすめているのか、それともこれからどうしようかと考えているのか。
 「ざまあねえ、おれもまるで赤とんぼだね」
 ふっと自嘲の笑みが彼の口元に浮びます。


 「天声人語」は、渥美さんの句を枕に、長崎県絶滅危惧種に指定された赤とんぼ、深山茜(ミヤマアカネ)の話題に移ります。佐世保市の環境団体の会長によれば、休耕田が増えて苗にまく農薬が変ったのが急減の原因とのこと。繁殖に適した環境は「水がちょろちょろと流れ出る棚田」ということで、農家から棚田を借りて稲を育てた。それでも四年前に比べると、生息数は半数以下に減っている。棚田をやめると、絶滅に近づく。「責任は重大です」と会長は語る。
 そして、この文章はこう結ばれます。


 「間近で見るとミヤマアカネはなかなか精悍である。お尻を太陽に向けてまっすぐ突き上げる姿など五輪の体操選手のようだ。実りの9月、棚田を歩きながらトンボと田んぼの行く末を案じた」
 

 深山茜の画像をネットで検索してみました。ぴんと伸ばしたお尻(?)を天にむかって突き上げた姿は、たしかに体操選手を思わせなくもありません。それもさることながら、筆者が体操選手を引合いに出したのは、それ以上に「トンボと田んぼ」の語呂合せの「着地」を自讃したかったからかもしれません。
 数日前、わが家のベランダにもとんぼが一匹飛んできました。ああ、もう秋か、と月並みな感想を抱いたものです。
 夕暮れ時の田舎の畦道では、いまも子供の頃のように赤とんぼが群れをなして飛んでいるのでしょうか。